いつも気付かないうちに気遣ってくれて。
いつもその優しさを知らないふりする。
そこが他の人にない尚のすごさ。
そこに惹かれたんだ。
「そろそろ出るか」
食べ終わったあたし達は、梨佳さんにお礼を言って店を出た。
辺りはすっかり暗くなって、携帯で時計を確認すると7時を回っていた。
そろそろ……帰る時間、だよね?
そう思うと、何だか現実に引き戻されたって感じがして寂しかった。
するとそんなあたしに、尚は口を開く。
「あのさ……」
「え?」
突然声をかけられて上を見上げると、尚はズボンのポケットから何かを取り出した。
それは……小さな正方形の赤い箱だった。
それを尚はゆっくりとあたしに差し出す。
「え?……くれるの?」
キョトンとすると、尚はフッと笑った。

