ヤバイ!


「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」



ぐちゃぐちゃの髪で、俯いてものすごい速さでうろうろする謎の生物咲子(25)



「これはヤバイ」



洗面所の鏡に映ったのは、まるでお岩さん。



目は腫れ、顔も見事にむくんでいる。


おまけに髪は、最上級に乱れている。


「なんでなんでなんでなんで……」


怨念のように、ぶつぶつと繰り返すお岩さん咲子(25)






とりあえず、顔を洗い、化粧水と乳液をつけながら、顔のマッサージ。



顔のラインと、目の周り。



念入りに念入りに。



「よし。これで、仕事モードの綺麗なお姉さんに元通り……じゃない」



悲痛な叫びを上げて、部屋に飛び込む。






「今日、遅番で良かった……」



とりあえず、現実逃避に綺麗なお姉さんを想像し、もう1度手鏡を覗く。



「ハハハ……こんにちは、お岩さん」



泣きたくなる気持ちを抑え、携帯電話を手に取る。




「もしもし、翔?」



「んあ?咲子?」



眠そうな翔に、早口で捲くし立てる。



「ね、ね、ね!昨日のお酒、何か入れたでしょ?」



「は?」



完全な言いがかりをつけるお岩さん咲子(25)



「顔が……顔が」


「むくんでんの?」


「そうよ!見事にね!」


「お酒飲んだ次の日は、早めに起床したり、高めの枕に寝たり……うつ伏せは避けるように言ったよね」


言われたけど……後の祭り。




「まぁ、とりあえず血行がよくなるようにマッサージして、あとは……」


「あとは?」


「がんば……って……」


恐らく眠ったであろう翔に、チッと舌打ちをしながら、電話を切った。