「翔!」


「なんだ、咲子か。今日はクローズまでだったんだ」


翔は、買い物袋を少し持ち上げ、買い出しだと笑う。


その爽やかな笑顔は、かつて咲子が好きだった笑顔。


高校1年生での、初めての恋―――。


優しくて、かっこよくて、でも、変にかっこつけない翔が、咲子は大好きだった。






「ん?咲子?帰らないの?」


翔に肩を叩かれ、ハッと足を進める。


「どうした?悩みごと?」


どうせ、今晩なに食べようとかだろ、と笑う翔の背中を、バチンと叩く。


「もー、なんだっていいでしょ」


動揺を隠しながらも、咲子は翔の1歩後ろを歩く。


「飯作るようなら、店で食ってけば?」


翔は、咲子に振り向き、にっと笑う。




「今日はいいや」


ため息混じりに言う咲子に、翔は心配そうな顔を向ける。


「んじゃ、また来いよ」


爽やかに手を振って、翔は角を曲がって行った。






「あ……」


気付くと咲子は、家の前まで来ていた。


「翔、遠回りしながら、さり気なく送ってくれたんだ」


心が、じわっと暖まりながら、咲子は真っ暗な部屋に入る。





「でも、翔は……過去の人」


少し寂しそうに笑い、髪を纏めていたピンを外した。