「あっ……あの……」


咲子が視線を落とすと、ちょうど食事が運ばれてくる。


今まで通り、ニコニコと笑う高藤に、先程の雰囲気を思い出し、一瞬だけ目を泳がせた。


食事を終え、しばらくすると、高藤は伝票を持ち立ち上がる。


「あ、私の分……」


咲子がお財布を出すと、高藤はその手首に触れ、目を細めると、小さく首を横に振った。


咲子の胸がまた、トクン……トクンと鳴る。


「僕が誘ったんだ。だから、ご馳走させて」


優しい声に、ドキドキしながらも、すみませんと小さく頷いた。


「モデルの件は、後日でいいので、その名刺の連絡先にお願いします」


ランチに付き合ってくれて、ありがとう、と言う彼は、ちょうどの代金を払い、そのまま出入り口に向かった。


店員さんに手渡されたレシートを受け取り、慌てて後を追うと、礼儀正しくドアを開けて待っていてくれる。


「ありがとうございました」


「こちらこそ。では、また」


小さく片手を上げた高藤は、最初出会ったときのように、少年のように笑った。




出勤まで、まだ少し時間があった咲子は、家に帰り、薄化粧の上に、ポイントメイクをのせた。


そして、カフェで何故か受け取ってしまったレシートを、手帳のメモ用紙に丁寧に貼った……。


「結局、買い物は出来なかったけど……」


幸せそうに笑った咲子は、レシートの端を、ゆっくりとなぞった。