「宮本さん」

「お嬢様。あの、金髪の方。
お嬢さんのボーイフレンドで??」


少し楽しそうな口調で。宮本さんが聞いた。
あたしは、くすくすと笑う。


「そうだ、と言ったら??」

「お嬢様も、やることはしっかりとやられているのですね」

「どーもっ」


あたしは、立ち上がった。
宮本さんの顔が見れれば、それで十分だ。

すぐに、ギンを追いかけよう。



「あら??お出かけになるのですか」

「うん。今日は帰らないから、夕飯はいらない」

「・・・お嬢様、妊娠だけは避けてくださいよ」

「余計な、お世話」



あたしは、宮本さんの目の前に立った。

・・・昔は、宮本さんのほうが高かったのに。
いつのまにかあたしは、宮本さんの身長を越していることに気がついた。


小さくなった宮本さんをじっと見る。



「お嬢様??」

「宮本さん・・・ありがとね」




宮本さんが、驚いた顔をして。
それから微笑んだ。



「お嬢様。それではまるで、今から死にに行くような人の言葉ですよ」

「・・・そうね」



それだけ、伝えたかった。

ありがとう。

宮本さんが居なければ。

あたしの現状はきっと、もっとひどかった。

とっくに死んでしまっていて。


ギンにさえ、会えなかったかもしれない。


「じゃあ、行くから」


宮本さんの横を通って。

あたしは玄関に向かおうとした。



「お嬢様」



あたしは、立ち止まる。


「私は、お嬢様に出会えて、本当に幸せです」


振り返って。
宮本さんを見る。彼女の、その豊かな微笑みに。
涙が出そうになった。


「・・・何言ってんの・・・」

「いってらっしゃいませ」


深々と宮本さんが頭を下げて。

あたしは、前を向いた。
それ以上。何も言わずに。


そっと、玄関のドアを開けて、外に出た。