そんな俺の気持ちはもちろん関係なしに、彼女は息をはずませてコートの中を歩いてくる。
俺は、少し微笑んでそんな彼女を見つめた。
彼女に、伝えたい。
それで、本当に俺から卒業できるなら。
それで、彼女が喜んでくれるとしたら。
それで・・・・・気持ちよく本当に好きな奴の元に行けるとしたら。
汐、見てて・・・・。
彼女から放たれたボールは俺の手の中にバシンと飛び込む。
見てて・・・・・。
バムッ、バムッ・・・走りながらドリブルを繰り返すと、目の前にゴールが見えた。
あの日。
ゴールを見つめるキミと出会って、
空を見上げるキミと出会って、
俺は何度も何度も恋に落ちた。
構えた腕がしなると、指先からボールが大きく弧を描いてゴールに向って飛んでいく。
それは迷いなくまっすぐと、リングの中を通過して落ちた。
床を転がるボールの音だけが、このコートの中に響いていた。
汐・・・・。
ゆっくり彼女の方を見ると、汐は呆然と転がったボールを見つめたまま・・・・
「汐・・・・・」
大きな涙が、その瞳を包んだかと思うと、頬を伝って床に落ちた。

