そうだ。
俺は・・・・覚悟してたはずじゃないか。
手に握り締めたままだった携帯を開くと、俺はボタンを押した。
「修也・・・・?」
タイチがいぶかしげに俺を見つめる前で、電話の向こうから聞こえる声に、静かに目を閉じる。
『修ちゃん?』
あぁ・・・・俺は今から大好きな人を、何よりも大切な人をめちゃくちゃに傷つけようとしている。
「ごめん。結婚できない。別れよう」
何とか言い切った言葉に、胸が詰まってそれ以上声にならない。
お願い。
汐は自由になって、という気持ちと。
お願いだから、嘘でもいいから・・・すがってくれ、って、どこにも行きたくない、って泣いてくれ、って。
どっちにしろ、残酷な希望だ。
心が完全に体から離れてゆく。
『修ちゃんっ!』
最後の彼女の叫びに、俺は無情に電話を・・・・切った。

