私がインターホンを押すより先に、玄関の戸が開いた。


「あら?うちに何か用ですか?」


戸を開けたのは綺麗な女性で、こちらを向いて声をかけてくれた。

それが誰なのか私にはすぐに解った。



「真夏っ…」


透さんが小さな小さな声で、愛おしそうに彼女の名前を紡いだのが聞こえた。

目の前にいる女性はとても美しくて、女の私でも見惚れてしまいそうな程だ。


「貴方に…真夏さんに用が。」


私は真夏さんに歩みよりそう伝えた。すると、彼女は申し訳なさそうに言った。


「えっ?あの…どこかでお会いしましたか?」

「あ…いえ。私は会った事はないんですが…。」

「よかったっ!!忘れてるのかと思って!」



“忘れてたら失礼でしょ”と言って笑った顔は少し幼く見えた。


「私、和泉 唄っていいます。」

「高校生ね、私も同じ高校に通っていたわ。」


真夏さんは私の着ている制服をみて、懐かしそうに顔を綻ばせている。

今から私が言う言葉を聞いても笑ってくれるだろうか…


「あの‥‥私を信じてくれますか?」


手のひらに汗が滲むのは暑さだけのせいじゃないだろう。

私はその汗をぐっと握りしめた。