金がない!
まったくない!
・・・確か鞄のこのあたりにいれてあったはずの財布がない!
目の前には山積みの空の皿。
俺の支払いを待つ店主がイライラと靴音を響かせる状況に全身の血が下っていく。
やばい・・・

原因はわからない。
財布を落としたのか、すられたのか・・・。
考えても財布がないことには変わりがない。
荒くれ冒険者達にまじり、命からがら仕事をして町に帰って来たのはつい昨日のことだった。
ギルドにて仕事料をもらい、当分は命の危険など無縁の日常を満喫出来るほどには金は持っていた。
が、
気がつけば無一文。
いやもっと悪い。

金が払えなければ、無銭飲食で前科者!
皿洗いでかんべんしてもらうには、店は閑散としている。
洗える皿は今俺が食べた自分の皿だけかも知れない。

「お客さん?払うの?まさか払えないってことはないですよね!」
痺れをきらした店主が、聞いては欲しくない事をさらりと尋ねた。

払いたくっても払えない!
ある筈の金がないのだから………。

言い訳が通じそうにない店主に、意を決して事情を話すべく、頭の中で言葉を考える。

『悪いな親父、財布を落としたみたいだ。食べた分働いて返すからかんべんしてくれ』
または、
『悪いな親父、財布を落としたみたいだ。つけにしてくれ』

……あたりか?

「お客さん?」
伝う冷や汗をぬぐって……
愛想笑いを浮かべる。
「おやじ……じつは……」
上ずる声に店主の顔が歪む。
「……うちの店はツケはききませんよ」
「それと、人手はたりてますんで」
話しをする前から釘をさされ、考えに考えた選択肢が2つとも使えなくなった。
「………。」
いや。
残る選択肢は……
前科者……
そんなのはいやだ!!!