ドアを開けると、いつものスパイシーな香りがした。 岳さんはカウンターの中にはいなくて。 あの窓辺でイスに腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。 あたしが近づくと、顔をこちらに向けてくれた。 「なんだよ……。 もう、こねーのかと思ってた」 クシャって顔を崩して、 見たことないようなホッとしたような顔をする。 泣き出しそうで、それでいて微笑むような顔。 ――ねぇ、ずるいよ。 こんな表情を隠してたなんて。