「あ、あの……良かったんですか?」
遠慮がちに声をかけると、岳さんは「何が?」とこちらを見た。
「彼女さん……ですよね? あたしがいたから帰っちゃったんじゃないですか?」
「アンタ客だろ? 何、客が遠慮してんだよ」
岳さんはそう言うと、カウンターに両手をついてあたしの顔を覗きこんできた。
「それに、アンタが思ってるような関係じゃねーよ」
「じゃ、どういう関係?」
「お子チャマは知らなくていいことだよ。
おじさんには、おじさんの事情ってもんが色々あんの」
意味深に目を細めてそんなことを言う。
その表情が、すごく色っぽくて……。
いけないことを聞いてしまったような気がして、あたしは慌てて言葉を探す。


