「椿……」 「でも、あの森には、椿なんて植えられてなくてね。 窓から見えるのは、雪景色ぐらいで。 椿どころか花一輪咲いちゃいなかったんだ。 ママが『どうして赤い花を描いてるの?』って尋ねたら。 岳君、こう答えたんだ。 “椿はボクの好きな花なんだ”……って」 その言葉を聞いた瞬間、喉にグッと力を入れて…… 泣きそうになるのを堪えた。 岳さんに初めて自分の名前を告げたときのことを思い返す。 『椿』と名乗ったあたしに、彼はこう言った。 『へー……。 椿か……。いいね。 オレの好きな花だ』