時々思い返しては、チクッて胸が痛くなることもあった。 無駄だとわかってるのに、勝手に足がヘクセンハウスに向かったことも。 もちろんドアは閉ざされていて、そこには人がいる気配なんてなかった。 今思い返しても、あの二ヶ月足らずの出来事は夢だったんじゃないか……って思ったりもする。 だけど、紛れもない現実なんだよね。 あたしはあの日にもらったマフラーを首に巻く。 もうあの香りはどこにもなかったけど。