……………


あの時私、泣きながら歩いていた。

なんとなく覚えているのは
オレンジ色に染まった家までの道と、


「おや?どーした。喧嘩でもしたのかい?」


と、すれ違った隣のおじいさんの言葉。


子供時代の私だ。

泣きながら家に帰った私をお母さんが優しく迎えてくれた。


いつもお母さんはそのあったかい胸で、
泣きじゃくる私に優しく話してくれてた…


「そう、それは悲しかったわね。…それじゃお母さんがいい事教えてあげる。」

そう…
お母さんは引き出しから手鏡を取り出して、私に握らせてくれたんだ…


「ほら、見て。こんな顔じゃ仲直り出来ないでしょ?
…そんなときはこの鏡で笑った顔を思いだすの。
お友達がこんな笑顔で仲直りしてきたらいいな、って思う顔をね。」


とっても優しくて、心から安心出来たお母さんの笑顔。

そんなお母さんを見上げて、
今度は違う涙が流れてきたんだっけ…

私はもう一度手鏡を見つめ直して、泣き顔を無理に笑顔にしたんだ。


「お母さんもあなたくらいの頃、同じ様におばあちゃんからこの鏡を貰ったのよ。」


優しくて、大好きだったんだ、お母さんの事…。