「それじゃあ、これあげる。」


「どうして鏡なの?」


少女は満面の笑みで答える。


「だってお姉さん、今自分がどんな顔してるかわからないでしょ?」


女はハッとした。

そうだ、
ここ最近じっくりと自分の顔なんか見ていないと気付いた女は、じっと手鏡を見つめてみる。

すると、少女が話しを続けた。


「小さい頃ね、私が友達とケンカして泣きながら帰ったとき、お母さんがこの鏡をくれたの。
『自分の顔を見てごらん。そんな顔じゃ仲直りも出来ないわよ。』って。」


女は鏡を見つめながら涙を浮かべた。

自然と涙が溢れてくる。


「お姉さんの今の顔、その時泣いてた私の顔みたいなの。」


女の頬に涙が伝う。

女はポケットからハンカチを出し涙を拭う。


「ありがとう。でもそんな大切な鏡、貰えないわ。」

と、少女に目をやる。

…しかしそこには少女の姿が無くなっていた。


「えっ?」


驚いて辺りを見渡すが、何処にも少女の姿は無い。

公園の片隅にある立派な桜の木に目をやった瞬間、
…女はある事を思い出した。