「あのキーホルダー、不思議だったけどいつかしあわせになってやるって、ずっと持ってたんだ。
…ちっちゃい私、ちゃんと持って行ったかな?」


涙を流しながら嬉しそうな笑顔。


「いろんな事あって、いっぱいいっぱい聞いてほしい事あるんだ。
…今度お父さんと逢いに来るから。その時いっぱい聞いてよね。」


手鏡を大事そうにウエストポーチにしまい、
その上からポンポンと優しく軽く叩きながら呟いた。


「私、家に帰るよ。この鏡で自分と向き合ってみるね。…ありがとう。」


公園の入口へ振り返り
歩きだした女。

公園の中程で歩みを止めた。

さっきまで 女の子がいたベンチの辺りに向かって


「がんばれ、私!」


と、小さく、でも力強く呟いた。


公園を見渡しながらエンジンを駆け、バイクにまたがる女。

行こうとして桜の木に優しい視線をおくる。


「またね。」


単気筒エンジンのリズミカルな排気音を残し、
バイクは颯爽と走り去っていった。