｢どうして鏡なの？｣


娘は満面の笑みで答える。

｢だってお姉さん、今自分がどんな顔してるかわからないでしょ？｣


女は、少しハッとした様子で手鏡を見つめる。


｢小さい頃ね、私が友達とケンカして泣きながら帰ったとき、
お母さんがこの鏡をくれたの。
『自分の顔を見てごらん。そんな顔じゃ仲直りも出来ないわよ。』って。」


女は鏡を見つめながら涙を浮かべていた。


「お姉さんの今の顔、その時泣いてた私の顔みたいなの。」


女の頬に涙が伝う。

女がポケットからハンカチを出した時、何かが落ちる。
娘は屈んで拾いあげ手渡そうと
「はい。」と女に手を伸ばす。


その先には誰もいない。