落ちたところ──・・・浮き上がったところと言うべきだろうか──・・・は僕が刺された路地だった。沢山出たはずの血が全て無くなっていた。時間が経っているのだろうか。

 僕はかばんから携帯電話を取り出し、開いて時間の確認をしようとした。そして閉じてまた開いた。

 「何だよ、これ」

 僕の見間違えだったら良いのだが、画面の画像、数字が全て反転していた。文字を打つはずのボタンの文字も、だ。
 それを気にせずに時計と日付を読むと、2009.9.12.00:12。僕は確か昼間に逃げていた。もう12時間も経ったのか?

 そしてもう一つの変化。僕は今、左手で携帯電話を触っている。僕の利き手は右だ。しかし左手の方が使いやすい。すらすらとスムーズに手が動く。利き手と逆の左手が動くというのはなんとも気味が悪い。でも動くのだから仕方がない。


 ──・・・他の場所はどうなっているんだろう。

 未知の世界──・・・でもないが、いろいろと反転した、しかし日常の世界に飛び込んだ僕は、立ち上がると後ろの汚れを払うと路地を後にした。