夜の皆が寝静まった頃、一階の階段下に蝋燭を片手に結崎を待っている侑貴の姿があった。
結崎からこうやって呼び出されるのは、これが初めてではない。
以前は、しっかり稽古に励むように、また、自分の許可なしに外出する際に鍵を壊さないでくれ、というようなものだった。
今度はついに、抜け出すなと言われるのだろうか。
そうなると、とてもまずいことになる。結崎が何を話してくるのかを考えすぎて、侑貴の顔は次第に暗くなってゆく。
と、物音しなかった廊下に優雅な足音が響き渡った。それが聞こえる方に顔を向けると、灯りを持った結崎が歩いてくる。
小声で侑貴が結崎の名を呼ぶと、結崎は反省しているような表情を見せて、深々と一礼をした。
「このような時間に来ていただいて申し訳御座いません」
「大丈夫よ。だって、薫にはたくさん仕事があって大変だ、ということは前から知っているもの。…それより何故呼び出したの?」
侑貴が尋ねると、結崎の顔に影が落ちる。結崎は、四角い縁の眼鏡を右手でスッと上げると、重たそうな口を開いた。
「…大変申し上げにくいのですが、単刀直入に言いますと…隆一様との交際をお止めにしていただきたいのです」
