辺境の村、アンシャンテ。緑豊かな村は、収穫祭を迎えていた。
山々は鮮やかに色づき、収穫を終えた村は夕日にいっそうの盛り上がりを見せていた。



遠くから祭りのざわめきが聞こえてくる。
村の外れに住む千種は、ぼんやりとそれを聞いていた。年は十五、六だろうか。華奢な黒髪の少年は夕日を眺めていた。
ふと、印象的な瞳が動いた。奇妙に澄んだ明るい金茶の瞳が、一点を見つめる。
「…おーい、千種ーっ!」
体格の良い少年がやってきた。
祭りに行く途中のようだ。
「なに?」
「そっちこそ何してんだよ?もう祭りは始まってるぜ」
赤髪の少年が呆れたようにいう。
「迎えに来たの?」
「他になんの用があってこんな村外れにくるんだよ」
千種にはもともと祭りに参加するつもりがなかった。収穫祭は村全体の祭りだが、両親のいない千種にはやはり肩身が狭かった。
「僕はいかないよ」
だから、当然ながら断わった。
「なんでだよ?向こうには美味いものが山ほどあるぞ」
少年は再度に渡って誘いをかけてくれた。千種だって行きたい。でも、駄目なのだ。
「…ごめん」
本当はきちんと説明したいのに、情けない臆病な自分をさらけだせない千種は、謝ることしかできない。
そのうちに少年も諦めて、行ってしまった。

千種はまた、一人とり残された。

夕暮れが過ぎ、ゆっくりと夜の闇が迫ってきた。
広場のある村の中央部は松明で明々と輝いている。



フローラは村の上空を漂っていた。
普段は世界の中央にある神殿の、そのまた奥にいるのだが、今宵は収穫祭。
辺境の村、アンシャンテの収穫祭は特に有名だ。
祭りの最後に村の男たちが松明を持ち、勇壮に舞うのだ。女たちのなかでる弦楽器の音色と重なり、それは見事なものだ。
この時期、村を訪れる観光客も多い。

女神は何者にも邪魔されることなく、上空で心行くまで祭りを楽しんでいた。
穏やかに微笑み、村を見渡したフローラは、ふと自分の注意をひくものがあるのに気が付いた。
それは村の外れにぽつんと光る窓だった。
(だれもが今宵の収穫祭を楽しんでいるはずなのに、どうしてあそこの窓は光っているの)
興味をひかれたフローラが、夜空をすべるように動いた。

フローラが通りかかると、花々がいっせいに蕾を開き、あいさつをした。