三度目の着信で目が覚めた。
またメールだった。
「家?今から行こうか?」
すぐに返信した。

「来て」

たった一言、悟られたくはなかった。
自分の動揺を、気づかれるわけにはいかなかった。
でも、今思えばこんなに気になるメールはなかったのかもしれない。

しばらくして、チャイムの音にビクッとなる体をどうにか起こして立ち上がる。
ドアを開けると、いつもと変わらない、ように見える表情のヒロキがいた。

後悔した。
涙が止まらない。
ヒロキの胸に飛び込んで、泣きじゃくるユミの姿は、生まれたばかりの子供のように見えた。

震える声を抑えながら、昨夜の話をはじめた。
夏にしては風が冷たい夜だった。

ひとしきり泣いたから、ヒロキに全部伝えられたから、ユミの心のモヤモヤはゆっくりと消えていくようだった。
しかし、ヒロキの表情はこわばって固まったまま。
そうしてどれくらいの時間が過ぎただろう、先に口を開いたのはユミだった。

「もう別れよう」

ヒロキはうつむいたまま答えようとしない。
徐々にその表情から読み取れるものが少なくなっていく。

「いいよ・・・もういい・・・」

帰っていい、ユミの最大限の優しさだった。
悲しいのも、辛いのも自分のはずなのに、いつの間にかヒロキに気を使ってしまっている。
やっぱり・・・その言葉が出てしまいそうになるのを必死でこらえるユミの瞳には、もう枯れるほど泣いたのにこぼれてくる涙が光っていた。

「・・・ごめん」

ようやく絞り出したヒロキの一言がそれだった。
謝って欲しくなんかなかった。
ただ、どうしてなのか、一体何があったのか、その理由が知りたかった。
自分に悪いところがあれば、まだ直せる。
本心では、ヒロキと別れるつもりなんてなかったのだから。
今のヒロキとはもうやり直せないのかもしれない。
重い空気の中、再びチャイムの音がした。