夜獣2-Paradise Lost-

近づくごとに、僕の狂気が膨らんでいく。

一撃で倒せる相手なら、そこまでの男。

「僕を強くさせろよ」

狂気に満ちた世界が、僕を侵食し始める。

甘粕を出来るだけ素早く倒すため、歩きながら能力を開眼させた。

甘粕の周りには纏わり付くように、白い空気が存在している。

十メートル。

五メートル。

甘粕は気付いていない。

一気に距離を詰めるべく地を力強く蹴って、暴走列車の如く甘粕に近づいく。

背後から、甘粕の頬の辺りに存在する白い空気に目掛けて拳を放つ。

しかし、殺気を感じ取ったのか、甘粕はサイドステップで回避する。

僕が通り過ぎる時に見た甘粕の目は、血の色に染まっていた。

「君は大胆だね」

僕のほうを振り向きながら、笑っている。

「終わりだと、思うな」

足に力を込めて踏みとどまり、白い空気を纏った石をトウキックで蹴り上げる。

石の剛速球は甘粕の顔を射抜くために襲いかかった。

甘粕は回避しようとしたが、石のスピードが勝っていたらしく、頬をかすっていく。

「君はためらいがないな」

甘粕はポケットから取り出したハンカチで頬を抑える。

「お前こそな」

「おや、君は見ていたのかい?」

僕は答えない。

「残念だが、あれは人じゃない。単なるゴミ掃除にすぎないよ」

人を殺す事に躊躇いがないのは、人を人とも思っていないからか。

「お前は自分を神とでも思っているのか?」

「彼らのレベルが低すぎるんだ。だから、ゴミ扱いされても文句は言えない」

ハンカチを頬から離し、人を人と認識していないような冷たい眼で僕を見据えた。

「さて、ここで質問がある。君に生きる資格があるかどうか。YES OR NO?」