その後、海江田は救急車に乗せられ、僕は容疑者として警察に同行した。

僕が留置所から解放されたのは、三日後の正午。

警察署から出ると、制服姿の渚がいた。

「すいません。少し、時間がかかりました」

「真相に繋がる唯一の手がかりを失った。真っ白だ」

今だに虚空の中にいる僕。

失った物による反動が大きい。

「あなたが、以前のように抜け殻に戻るのならそれでも構いません」

「何もなくなったんだ。奴だけが」

「そこまでの拘りに、意味があるのですか?」

「何?」

「私は復讐するなとは言いません。それが間違えでもあなたにとっては正しいですから。復讐しろとも言いません。道徳としてはそれが正しいですから」

淡々と、言葉を紡いでいく。

「選択するのはあなたです。誰しもが失望したとしてもあなたの傍にいます。ここで、失った物と共にあなたが生き方を変えるのも自由です」

「お前は、どう思う?」

「私の考えを言ったところで、耕一さんの気持ちに訴えかける『何か』はないと思います」

「答えろ」

「解りました」

二歩ほど歩いた後に、こちらを見る。

「私は満足する方に歩いて欲しいですね。いえ、耕一さんは必ず自分を満足させる方向に歩きます。今は手がかりを失って間もないですけど、人から言われて意見を変えるとは思えません。何故ならば、あなたの心の奥底はすでに光が差さないほどの暗いですから」

虚空にいるのにも関わらず、密かに佇んでいるは黒い闇。

渚に言われて確かめるように、拳を握り締める。

まだ動いている。

指も、腕も、脚も、心臓も、脳も。

「確かに、な」