「きゃあ!!どうしたのゆか、びしょ濡れじゃない!!」

「……傘、忘れちゃってね。別に、大丈夫だから」

私はお母さんにそれだけ言って、お風呂場に向かった。頭がじんじんと痺れて、何も考えられない。……何も、考えたくない。

湯船の中に、はらはらと何かが落ちた。何度目を擦っても、それは止まらなかった。

「……やっぱり、涙に意味なんてないんだよ」

だって私、全部なくしちゃった。かけがえのないもの、なくしちゃった。

――それから私は、長時間雨に打たれたことが要因となって風邪を引き、何日も寝込んだ。

私は、熱に浮かされながらも何度も何度も亮の夢をみて……そのたびに枕を濡らした。

降りしきる雨の中、私から去っていった亮の背中が、瞼に焼き付いて離れない。本当は、誰よりも傍にいて欲しかった。私と亮を引き裂いた赤沢早苗達が、憎い。亮との別れは自分で決めたことなのに、誰かを憎まずにはいられなかった。誰かのせいにしなければ、心が悲しみで押し潰されてしまいそうだった。