さっきから何度も目で台詞の文字を追ってるのに一向に記憶されていってる感じがしない。
台本の影からちらっと隣を窺えば、
「ふーんへぇー。大城くんがねぇ」
ニヤけた乙部の顔が俺を見ててすぐさま台本に目を戻した。
そんな落ち着きの無い動揺しちゃってる俺を君原妹が鼻で笑ってる。
そんな気がする。
いや、きっとそうに違いない絶対そうだ。
あぁ……さっさと誰でもいいから来てくれ。
これ以上この二人の奇異の眼差しに耐えられる程強くないんだ俺は……。
ドアノブのカチャッていう音と共に、俺の切なる願いはものの10秒程で叶った。
やっぱり日頃の行いが良いからな。
神様はちゃんと見てくれてんだなぁ。
なんてしみじみと慢心してたのも束の間。
「ヤッホー澪斗きゅんっ!」
何の因果か現れたのは頭空っぽのバカ面をさげたバカ那津で。
な……なんで那津っ!
おまえは来なくていいんだよ!
神様、俺の胃にストレスで穴を空けるつもりですか……。
こんな状況に那津が入ったりしたら、火に油をどくどく注ぐようなもんだ。
あぁ……。
どうしよう。
逃げ出したい。