むかしむかし。

あるお城の舞踏会で、お姫様が一人バルコニーで佇んでいました。


彼女は口がきけません。
大好きな母親の死が、姫の心に大きな傷を作ってしまったからです。



そんな姫にある一人の青年は恋をしました。


「僕と踊ってください」


膝をつき手を差し出した彼の手には八重咲きのクチナシの花。
姫は驚いたものの青年の真っ直ぐな瞳に惹かれ、受け取ったクチナシの花を髪にそっと飾ってみせます。



手を取り合った、二人は、星空の下でダンスを楽しみました。



その後も、数回の逢瀬を重ねる内に、二人はお互いにどんどんと惹かれていくのを感じました。



そんな矢先。
姫の許嫁だった王子が、姫を娶りにやって来たのです。


そして時を同じくして、青年にも立派な貴族の娘との婚姻の話が持ち上がり、とうとう二人は離れ離れの運命に立たされました。



しかし、お互いに愛し合ってる二人は周囲の反対を押し切るように駆け落ちを試みます。



あと一歩で自由の身に……。
その寸前で二人は王子に捕らえられてしまったのです。