「ははー。澪斗きゅんたら素が出てるよ?」



「おまえにまで振り撒く愛想は持ち合わせてないよ」



「やーん、イジワルー」


ワザと気色悪い声でふざける那津は無視するに限る。



無言で廊下を進んでいく俺に貼りついたままのコレ。


猿渡 那津。
文武両道で模範生徒な俺の本性を知る唯一の人間にして親友……っていうか腐れ縁。


人懐っこく単純なバカで、たまに羨ましくなるくらい気楽な奴だ。



そのまま那津と一緒に人気の無くなった廊下を行き、空っぽになった放課後の音楽室の扉を開く。



椅子にピョンと飛び乗った那津の向かいで、窓際の壁に胡座をかいてもたれた。



ここは唯一学校で息抜き出来る場所。

……しばらくは文化祭の準備で使えないんだろうけどな。




「そいえば、聞いた? ヒロインのこと」


「…………」



「今年もスゴイらしいよ。リタイア続出……はぁ、女の子って怖いねー」



こう言って那津が溜め息をついた理由。
それは、学年演劇の主役が決定した直後から始まった、ヒロインの座争奪戦にあった。