なんの脈絡もなく唐突に言われた言葉に、君原妹の目の前でタジタジする寿梨の姿が容易に想像出来た。


こんなん寿梨じゃなくてもタジタジする。


声色からして恐らく君原妹の顔はいつものポーカーフェイスだろう。


あの感情が一切読み取れない顔でいきなりこんなん言われたら……。


「……鮎花ちゃん。大丈夫?」


「やっぱり苦手って嫌いと同列なのかしら」


「鮎花ちゃん……そんなに悲しそうな顔、しないで?」


……えっ?
悲しそうな……顔?


あの完全無欠の無表情に悲しいなんてオプションがついてたなんて……。


想像がつかない。
アイツの表情のバリエーションは無表情と嫌味にほくそ笑んでるのしか知らん。


もしくは……素の俺の方が好ましいって言ったこそばゆいような笑顔。
これだって俺には夢か幻かわからんような気さえしてるってのに……。


とにかくどう転んでも想像しえない悲しそうな顔をしてる君原妹に、俺の頭は大混乱の真っ只中に置かれる。


だって……何が悲しいんだよ。
俺が苦手って言ったことの何が……。