寿梨が入っていった保健室の扉の前で俺はじっと息を凝らしていた。


磨りガラス越しに存在がバレないように細心の注意を払いながら……。


まるでスパイか探偵か張り込み中の刑事のようだ。
……決して覗き魔とかストーカーなどの類ではない、断じて違う。


誰に言うでもなく一人脳内で己にツッコミをしてる間に、


「どうかしたの? ……大城くん、一人だけで戻ってきたけど……」


寿梨の声でズバリ核心に触れる質問が飛び出して思わず身構えた。


握り締めた手のひらにうっすらと汗が滲む。


……君原妹はなんて答えるのか。
どうか俺への腹いせに俺の寿梨への密かな想いをバラすなんて暴挙を起こしませんように……。


握り締めてた俺の手は気付けば、両手を組んだ祈りのポージングへと変わっていた。


「ねぇ寿梨」


「……なに?」


「苦手ってどういう意味かしら」


「えっ?」


ポツンと寿梨の名前を呼んだのを皮切りに、君原妹の淡々とした声が保健室に小さく響き始める。