「良かれと思って入れたフォローだったんだけど」


「…………」


「気にすることないと思うわ。童貞でも男の子が好きでも」


「だからッ! ……もういい」



最強で最凶のポーカーフェイスに奈落に突き落とされた俺がやって来たのは家庭科準備室だった。



家庭科室からは手芸部が和やかムードで文化祭の準備をしてるのが聞こえる。



それと比べて此処は……。



布の山だらけで狭い空間で、しかもこの食えないポーカーフェイスと二人っきり。



雲泥の差。
天国と地獄。



居心地悪いことこの上ない。



小さな机一つを挟んだ目の前では君原妹が慣れた手つきで衣装の裾を直している。



それに引き替え俺はと言えば……。
初っ端に自分の指を刺したもんだから、一針一針バカみたいに遅いペースで縫っている。



縫いにくいサテンの布が指先でツルツルと擦れて余計にイラついた。



「貸して。待ち針打ってあげる」



いつの間にか衣装から顔を上げた君原妹が見兼ねたように俺の手元を見つめている。


手に持っていた衣装を一旦置いた君原妹の手がこっちに差し出された。