“あっ。もしもし…”
せっかく上げた重い腰を ドスッとソファに戻す
“あ、あの自分…分かるかな?…多田慎二”
電話越しに聞こえる声は 生で聞く声よりも低音で その声が耳元で静かに囁くもんだから 腰の辺りがくすぐったくて力が抜けてしまいそうになる
“はい、分かります。身体の調子は大丈夫ですか?”
努めて冷静を装う
“この間の礼がしたいんだけど、まだファミレスに居る?”
一気に顔が熱くなる。
“ど、どうして?知ってるんですか?”
“仕事帰りに後輩とそのファミレスに寄ったら、あんたがツレと話しているの見えたから。まだ居るのか、と思って…”
気付いていたんだ…。
“まだ、居ますよ。だけど、そろそろ帰ろうかと思って…”
“そっか…。帰るんか。”
少し残念そうな声
“えっ。でも、まだ帰りたくないっていうのか、どこかに行こうかなって思ってたから…”
なんだか、しどろもどろで ぐだぐた。
“ふっ。何にしても、迎えに行くよ。これから、大丈夫かな?”
“大丈夫です。”
“じゃあ、待っといて。10分ぐらいで着くから。”
“あっ。はい。”
携帯を切ると すぐさまレジでお金を払い 外に出た
そして 人目が付きにくいように電信柱に隠れて 多田慎二を待った



