ー親愛―








誰もいないアパートへの帰り道





シンの古い車からは シンの匂いがふと、香る時がある


胸が締め付けられるぐらい苦しくて… どうしようもない気持ちを抑える





アパートにつき 玄関の鍵を開ける途中、中から電話の音がする



思うように開かない鍵を開け 足早に入って行く




“もしもし、多田です”





“………………八重?”


“シン?”


愛おしくて愛おしくて待ち焦がれた人の声



“元気?マリアさんは、見つかったの?いつ帰って来るの?お腹の赤ちゃんね、とっても大きくなっててね。男の子だって。名前何にしようかな?シンが決めてね。シン?聞いてる?”

機関銃みたいにありったけの想いで シンに話し掛ける


“聞いてるよ。八重?明後日帰るから…。長いこと待たせたな。”


“えっ!本当に?明後日って、明後日だよね。何時の飛行機?”


“ハハハ。元気そうで、なによりだ。朝一番の飛行機に乗るから、日本に着くのは昼過ぎだ。悪りぃな。”




涙が溢れて どうしようもないぐらい溢れて仕方ない

シンにたくさん話そうとするけど 涙と鼻水とで嗚咽がして話せない



“八重。帰ったらたくさん聞いてやるから、泣くな。…………………愛してる”















それが シンから聞いた最初で最後の“愛してる”だった