ー親愛―





13:00


ついにこの時がやって来た




沢山の荷物を両手に持ち、笑顔で旅立つ人


別れに悲しみ涙を流す人


抱き合う恋人


たくさんの想いが交わる空港




シンは見送りに来てくれた大和や施設長と話しをしている


私はそんな三人の様子を冷たい椅子に座り、眺めていた


長い付き合いの三人の中に 私の入る隙はない気がして…… 入って行く事をためらう






“八重”



シンが手を差し延べて、呼び寄せる


照れ臭いような 嬉しいような気持ちで三人の間に入って行く




“…………これ。”


ボストンバッグの中から、柔らかいピンクの紙袋を取り出す



“…なに?”



“俺が帰って来たら、一緒に開けよう。それまで、お前に持っててもらいたいんだ。”



“う、うん。わかったよ”



渡された紙袋を両手に抱える



“じゃあ。行くな…”



“おう”


施設長がシンの肩をポンと軽く叩き シンと顔を見合わせる




シンはゆっくりと歩きだす



私は ただ軽く手を振って見送るしかできなかった



小さくなっていくシンの背中を見ながら ただただ見守るしかできなかった




“八重の為に早く帰って来いよ!!”

大和がたまらず叫ぶ



シンは後ろ手に手を振りながら 振り向きはしなかった




そして シンはマリアさんのもとに旅立っていった