それから… シンは暗い顔もした
一度だけ築いた家族の事だった
内戦の激しい国
同じ人間同士が武器を持ち 殺し合う
身体から溢れんばかりの血を流し 涙を流し 息絶えて逝く
気がおかしくなりそうになり シン自身武器を持ち歩いたという国で 子供を前後に抱え、逃げ惑う一人の女性
自分達の命を守る事さえ必死だったはずなのに その女性は敵も味方も関係なく 傷の手当をし、多くの犠牲を被った人達の最期を看取る
その女性は まるで聖母マリアのように美しかったと シンは言う
その女性にシン自身も助けられ 惹かれた
その女性と子供達とシンは命からがら その国を出て温かい家庭を築くはずだった
《あれは、幻だったんだ》
戦争という悲惨な出来事が シンの感情をおかしくさせていた
平和な国に逃げた時 シンは《母親》のその女性を《女性》として見れなくなっていた
酒・麻薬・女に溺れ 仕事はせず、《母親》の女性に頼りきっていた
それでも、その女性は文句ひとつ言う事はなかったそうだ
廃人のようになってしまったシンは 酒に酔った勢いで、その女性の子供に暴力を振るってしまう
それに耐え兼ねた女性は 何も言わず家を出てしまう
酒がきれて 我に返った時、残っていたのは 温かいスープと、自分の拳に付いた血だけだった
シンは自分のしてきた事を酷く後悔した
泣いて泣いて どうしようもないぐらい泣いて
彼女の言った言葉を思い出す
『未来は自分で切り開かないと 未来じゃない』
シンは なにもかも断ち切り、一生 忘れないと 背中に十字架を背負ったキリストの…あの入れ墨を施し、日本に帰国する
だけど 今さら日本に戻って来たところで、働くあてもなければ お金もない
日本に戻っても あの時と同じ繰り返し―酒や女に溺れてしまう
ホームレスになり、野垂れ死にそうな所を施設長が探し出し 介護という仕事に就く



