僕はその手をそっと握ることしかできなかった

「いえ、こちらこそ。空撫さんには色々教えてもらいました。向うでも頑張ってください」

「うん。リサイタルできるくらいのピアニストになって帰ってくるから」

空撫さんと手を合わせて握手した。

少し冷たい手。

ふいに、空撫さんがボクの顔に身体をよせて、耳元で囁いた。

ふわりと甘い匂いがした。

「空撫さん」

「大丈夫。運命の人はすぐに現れるよ。それに美朝は服の趣味がちょっとおかしいし、実はね味覚音痴なんだ」

そう言ってボクから離れた。

あぁ・・・

空撫さんは全部知っていたんだ。

ボクの隠していたつもりのもの全て

彼女に甘えていたのは、ボクもだ。

叶わない願いのはけ口を空撫さんに向けてたんだ。自分でも知らないうちに。



ボクは祈った。

その日から毎日。

彼女の願いが全て叶いますようにと。