僕はその手をそっと握ることしかできなかった

「お前、人の足元見やがって」

「どうすんの?やるの?やんないの?」

次第に副部長を追い詰めていく空撫さんと、何とか逃げようとする沢田副部長とのやりとりを、美朝さんは微笑ましげに見ている。

「分かったやれば良いんだろ」

ついに沢田副部長は、廊下に膝をついた。意を決して手を付いて空撫さんに頭を深々と下げた。

「約束破ったり、処々の暴言の数々申し訳ありませんでした」

そう言った途端、シャッター音が響いた。

空撫さんを見るとニヤニヤと笑いながら、ケータイを副部長に向けてシャッターをきっていた。

両手にケータイを持っているところを見ると、動画も取っているようだ。

「空撫、何撮ってやがる」

「これであっでヘコんでも大丈夫だよ。ありがと」

その顔は誰よりも何よりも可愛らしい笑顔だった。

「これを見て元気になるよ」

「なるか!バカ!」


そう怒鳴る副部長の顔はどこか晴れやかに見えた。

校門でボクらは分かれる。

三人とボクとは帰り道が逆だし、三人の邪魔をしたくはなかったから。

「椎名君、今までありがとう。椎名君にはすごく助けてもらった」

空撫さんはボクの正面に立って、ボクの目のを見つめていってくれた。