僕はその手をそっと握ることしかできなかった

「でも、副部長が空撫さんにしたことは許せません」

「そうね。私たち欲張りすぎたわ。カナちゃんを裏切ってしまったのだから。カナちゃんを失う覚悟持たなきゃいけなかったのに、三人の居心地の良さを捨てられなかった。カナちゃんの優しさに、甘えすぎてた。私は覚悟できてるよ、空撫ちゃんの夢を応援すること」

女の人は強い、それに引き換え、オレ達男は往生際は綺麗とは言えない。

「いつまで、逃げてるつもりだ!本気でかかって来い」

「分かった、本気で行くね」

聞こえてきたのは呑気な声だった。

次の瞬間、朝練と同じように、副部長の身体が吹っ飛んだ。

何が起こったか分からなかった。

「何しやがった」

副部長も状況を飲み込めていないようだった。

「何って突き」

「ふざけんな、突きでこんなに」

「吹っ飛んでんじゃん。本気出せって言うから出したのにもう一本行く?」

副部長は立ち上がり向っていく。何度も何度も。

副部長の竹刀は、全く空撫さんに触れることはなく、かわされ逆に身体中に竹刀を叩き込まれた。

ボクの目から見ても分かる。

空撫さんの剣は、副部長たちより、一段も二段も抜きんでている。

これが空撫さんの本気。

二人は、剣道の形にとらわれることない形で、剣をあわせている。

二人が小さい頃から通っている道場のスタイルらしい。

特に空撫さんは待っているようで魅入ってしまう。