「この人、いつまでも子どもみたいで。ははは。ところで、アメリカにお住まいなのですか?」

「いいえ、シンガポールなんですが、まぁ、恥かしながら言い訳をさせていただくと、昨日家を出る前に、娘がどうしてもこの熊を連れて行けと泣くものですから。それで出るときにあわてて。こうして荷物になるのがわかってても機内に持ち込んだ次第なんです。」

「あぁ、すみません。もしかして日本の方ではないのですか?あんまり日本語がお上手なので。私すっかり同じ日本人かと思ってしまいました。」

「まぁ、シンガポールにも大勢日本人が住んでいるし、私は成田から乗りましたからね。以前日本には長く住んでました。本当に平和な良い国です。ところで、ご旅行にアメリカへ?」

「はい。新婚旅行なんです。」

ヤンの作り笑顔には何かしら人を魅了する力がある。

それは平和ボケしている人間にとって、人を信じきるための理由として十分すぎた。

「じゃぁ、このくまちゃん、差し上げますよ。娘には帰りの道中で何かお土産を買って帰るつもりでした。どの道スーツケースもパンパンだし、娘ももう覚えてないでしょうから。もちろん、ご迷惑じゃなければ。」

「えっ、よろしいいんですか?!」

ルイの瞳が輝き、お祭り気分の二人はなんの疑いもなくイギリスから来たこのかわいい『くまちゃん』を受け取った。

それから、お互いにニューヨークでの滞在先などを交わし、時間に余裕があれば一度食事でもしようと約束を交わした。