半年後。

ニューヨークジャーナルの記事の一面にはケビンの失踪事件のことが大々的に書かれていた。

ニューヨーク五十番街でそれを横目で見る歩行中の夕の会社員たちは、通常ならダウ-ジョーンズの価格が一面を飾っているはずであるのに、今回はタブロイド誌かと、その目を疑った。

無理も無い。

それほど全米を揺るがすほどのミステリアスな事件であり、そのお陰で前代未聞の空前のヒットを残した映画だからだ。

みな実弾を打ち込まれた人気俳優が、銀幕の中でどんな顔をしているのか見たいのである。

そしてそれ以上に大きく取り上げられていたのは、ケビンの婚約に関する記事であった。

今一番ホットでセクシーな俳優が結婚するとあると、世の女性たちはむやみやたらに相手を知りたがるものである。

そしてその相手が聾唖の日本人とあれば、なおさらである。

実弾で撃たれた後、失踪、そして婚約。
『事実は小説より奇なり』、である。

その上有難いことにメイソン刑事によって、ルイと亮介のことはメディアに拾われるのを逃れた。

それに対してケビンもルイも、彼への感謝の意を禁じえなかった。

そのお陰で、ルイはいったん日本へ帰国し、家族とも再会でき、そして亮介のお墓に手を合わせることができたのだった。