その一方機内では、マニラから出発して成田経由で同じ飛行機に乗り合わせていた麻薬シンジゲートの男がいた。

『くすり(麻薬)』は日本経由で運ぶと簡単だ、がその道の常識だった。

しかし、ラガーディア空港となると、それは違う。
アメリカ東海岸を一手に引き受ける二大空港、ラーガディアとニューアーク。
どちらもパスポートを汚しきった運び屋にとっては少しハードルが高い。とても面倒だ。

そこで、男は考えた。「この日本人を使おう」と。

ヤンというこのタイ人の男、根っからの悪で今タイに潜む数多くの犯罪、人身売買や麻薬取引、特に子どもの売り買いなどでは、ヤンはその道に名が知られていた。

見ため身なりのいいビジネスマン風の男だが、人を殺すことなどなんとも思ってはいない。

それどころか、今回のビジネスは大量の『大麻』と『キャンディ』だが、その『キャンディ』とは、最近出てきた新しいアンフェタミン系の薬で、ヤンのそれは実に質の悪いアンフェタミンを使っており、トイレ用洗剤から抽出する物質とタルカムパウダー(滑石)の配分すら大いにいい加減ときた。

そんなものであれば、カンザスの田舎者にでも作れる。

『大麻』はというと、その半分は中国タバコが混ぜてあり、これも大いにふんだくっている。