ルイはケビンの腕の中でもがこうともしなかった。

ただ、どうして亮介は一人で死んでしまったのか、そればかり考えていた。

全く、ご都合のいいことで。

あれだけケビンが恋しかったのに、いざこんな風な結末を迎えると、女はこうなるものなのか。

しかし、その時のルイには今までの状況が走馬灯のように頭で駆け巡った。

あんなにつらいことがあった後も、『これでもか』と容赦なく心が押しつぶされ続けるのであれば、いっそこの体が消えてなくなってしまったほうがいいのかもしれない、とも。

ところが、丸坊主の男がそんなルイの心を察したのかやぶからぼうに、

「おめーはどこにクスリがあるか考えときゃいいんだよ。めったなこと考えんじゃねぇぞ。」

と、同情の念をこめてぶっきらぼうに言った。

そしてその後、イーサンが無機質にヤンから受け取ったものや教えられたものがないかとルイに聞いた。

「おい、だれか紙とペンを渡してやれ。面倒だな、ほんとに。」

ルイは受け取った紙にさらさらと書きなぐった。

『ケビン、ひどい人。いつから私を監視してたの?』

それを見たケビンはルイの目も見ず、

「ずっと前からだよ、さくら、いや、ルイ。」

と、そっけなく言ってのけた。

ルイは彼のその反応にまたもや心が凍りついて、やっと涙らしきものが流れそうになったが、『こんな状況に負けてなるものか』と、その涙を気丈にも飲み込んだ。

その表情は、たまたま田舎町に迷い込んだ野生の山猫のように、見つけられて処分されるやもしれぬが、最後の時まで凛としていたい、といった決心に満ちた表情だった。