撮影は二日目にして一足飛びに、最後のシーンの撮影の準備に入っていた。

最後の台本読みが終わると、ケビンは一人自分のコンテナへと戻っていった。

台本では、自分の恋人が今まで何人もの人を殺してきたシリアルキラーであること知った女が、この世でたった二人だけの家族の兄をも殺したのかと問い詰める。
そしてすでに撃たれて倒れていた警官の腰からグロッグ9(Glock9ほとんどの警察官が携帯している銃)を抜くと、おもむろに恋人の左足を撃つ。
ケビン演じるその恋人は、撃たれた左足を引きずりながら女の方へはいつくばって行く。
そして女はあれほど愛していた恋人の唇、瞳を濡れた眼で見つめながら、瞬きもせずに最後の引き金を弾くのだ。

白い大きな十字架の袂で。

撮影の準備は周到に行われていた。

ケビンもコンテナから重苦しい雰囲気のままやっと外に出てきた。
このときばかりはさくらのことなど完全に忘れていたようだ。

ヒロイン役の女優も抜かりなく繰り返しスクリプト(台詞)を口にしている。

カメラ配置も万全にヒロインの姿とその表情を捉えるべく用意された。