次の朝、ホテル入り口の階段付近で、足の悪い男が誰かとしきりに携帯で話している。

それでも男は直ぐにさくらに気づき、その汚くにごった水色の目でさくらの姿を追った。

さくらは全くわからないふりをして、全身全霊を男の会話に傾けた。

「はい。なんとか来月までには物を見つけなければ。はい。バリーのことは任せておいてください。なんとか始末しますよ。はい。あのニップはなかなかしぶといですね。思い出すそぶりも無いんですよ。ハイ。」

知ってか知らずか、男は「しぶとい」のところでさくらを見てにやっと笑って見せた。

背筋が凍った。

男は電話を切ると、さくらに近づき言った。

「まぁ、警察には言えないな。気づいてんだろ、あいつぁ俺たちの仲間だって。なぁ、早く思い出してくれよ。」

そして、薄気味悪い声で低く、低く笑った。

そして階段の上のおどり場で、男の話をメイソン刑事がそ知らぬ顔で聞いている。

そして、もう一人。

朝のカウンターの忙しい時間帯、大勢のホテル客がごった返す中、何故かもう一人さくらと男のやりとりに意識を注いでいる人間がいる。

さくらは一瞬そう感じた。

そして、そう感じた方向に目を向けてみると、そこには台本を読んでいるケビンがいた。

― まさかね。

さくらはそう思った。

できるだけ、ケビンには心配かけまいと改めて心に誓った。

そして次の撮影地である巨大な白い十字架の袂へと向かうバスへみな乗り込んた。

『次の撮影はどの場面?』

さくらがそう聞くと、

「次は最後のシーンなんだ。あの孤独な殺人鬼がヒロインである、生涯唯一愛した女性に撃たれるんだ。」

役に入っているのか、ケビンがむすっと言葉少なめに語った。

さくらにはそれが少し哀しかった。