気がつくとさくらはあるホテルの一室にいた。

そこでバスタブの中に何度も顔をつけられ、

「早くいえっ!」

とはやし立てられるのだった。

「あぁーあ、きれいな顔が残念だね。」

「俺はなんだか興奮するぜ。」

サザナーズアクセントの男が言った。

さくらにははっきりと感じられた。忘れられやしない、あの声を。

― 思い出してはいけない。

とっさに自分の中にある何かがさくらの思考を断ち切った。

何度も水につけられて思うように息ができずに意識が遠のいたり戻ったり。

苦しい。

尋常な状態を完全に逸脱したさくらを見てある男が言った。

「やっぱり医者が言ったとおり、何も覚えてないんだよ。その辺にしとけよ。」

さくらは部屋の明かりの逆光を浴びているその男を見ようとしたが、なかなか焦点が合わなかった。

男はそれを感じてか、すっとその場から立ち去った。

しかし、やはりその声もさくらにははっきりと聞き覚えのある声だった。

「このまま泳がすか。」