辺りに灯がともるころ、隣にいた男がさくらに話かけてきた。

「どこかでお会いしませんでしたか?」

さくらはすばやくノートを取り出すと、

『さぁ、そうではないと思うのですが。』

と、書きなぐった。

そして、席を立とうとしたその時、男は小声でさくらにいった。

「くまのぬいぐるみは好きかい?」

さくらは首を横に振り、そのまま席を立った。

そして自分のホテルでない、全く関係の無いホテルへと入っていった。

エレベーターに乗るふりをして、そのまま角へと滑り込み、しゃがんだ。

なんだか胸が騒いだ。

何か自分の過去と関係があるに違いない。

― あいつは危ない。

心を落ち着かすために、少しそのままの状態でしゃがみこんで隠れていた。

半時間もたったであろうか、もう大丈夫だろうと、立ち上がり、エレベータの角から出ようとしたその時、そこにその男は立っていた。

男は小半時間、そこでずっとさくらが…、いや、ルイが立ち上がるのを気配を隠して待っていたのだ。

男は無精ひげを蓄えたその長い顔を、にやっとさせると、

「みつけたよ。」

と一言いった。

その途端、さくらの背後から屈強な男が近づき、さるぐつわをし、何かの液体をかがせた。

そしてさくらは完全に意識を失った。