さくらと出会って今まで手をつないだり、キスすらしたことも無かったが、決してさくらに対してそういった気持ちが無かったわけではない。

それどころか、ほぼ信仰心に近い感情が彼の中にはあった。

何か触れてしまっては壊れてしまうような、そんな感覚が彼の募る感情をぎりぎりで抑えていたのだった。

「さくら、君は僕と一緒で幸せかい?」

さくらは明るく微笑んだ。

「さくらはいったい日本でどんな人生を歩んでいたんだろうね。」

一瞬さくらの顔色が曇った。

「まだ日本には帰りたくないんだね。」

うつむいたまま、小さくうなずいた。

ケビンはどうしてもこの会話を避けたいと思ってきたが、そういうわけにはいかなかった。

きっと日本にはさくらの生死を案じている家族がいるであろうし、そしてその人たちはきっと必死でさくらを探しているに違いない。

しかし、軽はずみに警察に届けようものなら、さくらを強制送還されてしまう。
そうするともう二度とさくらに会えなくなるのではないだろうか。

その上、何度さくらに同じ質問を投げかけても、答えは変わらない。

さくらは日本に帰りたくないのだ。

これでいい。ここでずっと一緒にいられる。