ケビンは一連の手続きを終え、後はNYPDに任せて病院を去ろうと、ER専用の駐車場にとめてあった車に乗り込んだ。

そして一つ目の角の信号で止まっている途中、後部座席に誰かいることに気がついた。

先ほど助けたアジア人女性だった。

「うわぁっ、何をしてるんだ!」

ケビンは飛び切り驚いたが、深呼吸をして気を落ち着かせた。

「君は病院にいなければいけないだろぅ。あっ、言葉が通じないのか。」

彼女はその傷だらけの顔で、まっすぐにケビンを見た。

ケビンは不思議と嫌な気がしなかった。

その実は、できればもう一度彼女に会いたいとすら思っていたのだった。

彼女のしなやかな竹のような体から、何気なくこのまま取り残されて土に返るような、そんなはかなさがにじみでている。
それでいて野生の山猫のように意志の強いその瞳が、凛とした言いようのないアンバランスな美しさを表現していた。

そして、ケビンはその美しさに息を呑んだ。

おおよそその風貌とは裏腹に、彼は役者一筋に今までまじめに生きてきた。

そんな彼にとってルイの登場は、彼の人生の中で起きた突然のストームのような出来事であった。

「僕と来るかい?」

ケビンはルイを乗せてアッパータウンにある自分のアパートまで車を走らせた。