今までのヤンの運び屋としての手口は、まず、純度の高いコカインや質のいい薬のサンプルを先に渡し、相手の信用を得た後、全額を受け取ってから、船で先に送っておいた商品のありかを教える、といったものだった。

しかし実際には、隠し場所の詳細はヤンにも知らされていないのだ。

ヤンが知っているのは、その隠し場所のキーとなる物品のみ。

タイのシンジケートが帰りの飛行機の中にいるヤンを確認した後に、ヤンに連絡をとって隠し場所を教える。
そうすることで万が一ヤンに何かあったとしても、商品に付随する自分たちの情報漏えいを避けることができるのだ。

そして今回のそのキーとは、サンプルが入った目玉を刳り抜かれたあの熊のぬいぐるみだった。

彼らにそのキーが熊のぬいぐるみであることなど、知る由も無かった。

しかしバリーには手間隙かけるほど、それらの粗悪品にはもう魅力を感じていなかった。

それよりもこの男、もともとトップに立つような器の男ではない。

短気な上に、金の計算ができないときている。

今までこの地位にありついていられるのも、単に『運』と『賢い手下』に恵まれていたからだ。