「このヤンから何も預かってないのか。」

丸坊主の男がルイに怒鳴る。

恐ろしさに加え、ルイには男たちが何をいっているのか、さっぱり検討もつかなかった。

そして、サザナーズ‐アクセントの男が、おもむろに拳銃を取り出し、気絶したままの亮介の頭を打った。

「パンッ」

映画とは違って、思ったより銃声は軽い音だった。

「いやぁーっ!」

ルイは自分の体の一部が引き裂かれ、細胞の一つ一つが連鎖的に、そしてパタパタと一瞬にして死んで行くのを感じた。

それはまるで漂白がされていない『ろ紙』に水がしみこむように冒されていくような感覚。

男は、

「俺、人の頭撃ったのこれで五人目なんだよなぁ…。」

と意味深げに言うと、冷たくうつむいて、ほくそ笑んだ。

その声はルイの頭の中を駆け巡った。

そして間もなく、死んだようになっていたヤンが、やっと搾り出した小いさな声で、何か丸坊主の男に言った。

男たちは急にあわただしく連絡を取り、さっさと片付けにかかった。

まず、ヤンを車に乗せると、亮介の服をぬがせて素っ裸にした。

それから抵抗するルイも身包みはがされて同じく裸になり、亮介の体と一緒に腕を後ろにまわして紐でくくられ、その紐でぐるぐる巻きにした鉄アレイを重石にして、まだ肌寒い夜が続く四月の埠頭から一気にイーストリバーへと突き落とされた。

埠頭に並ぶガントリークレーンのライトが、海の底まで強く届いていた。

水に沈んでいく亮介の顔が振り向いたルイの肩越しにとても良く見えた。

こんな時にでも『愛してる』の気持ちがあふれ出てくる。

そしてルイは冷たい水の中で「神様、私を早く殺して下さい。」と祈った。