「仇名だって?お前には元より名前なんてないだろうが」

釦が無表情に瞬きをした。

「そうだったね。ちょっと調子に乗り過ぎだなぁ、

──小林君」

一瞬で小林の拳銃を掴むとその手を捻って、拳銃ごと小林の腹を殴る。
鈍い音がして、小林は倒れこんだ。
無情にもその小林の体をひょいと避けて、僕に向かって歩いてくる。

「Don't mind!」

ドンマイならドンマイと言えばいいのに。

「何だよ…ストーカー」

「あ、そんなこと言う」

すねたような表情を見せてから、釦は僕の腕を掴んで引きずるように僕を部屋から出した。

「何なんだよ、お前彼奴と知り合いな訳?つかアレ誰だよ」

「僕が今言いたいことを教えてあげる」

「は?何」

「“あぁもう煩いなって言ってもいいかな?”」

そんな間接的にわざわざ。
僕は溜め息を吐いて手荷物の紙袋を揺すり動かした。

──僕の、母親。
どんな人間なのだろうかなんて今まで考えたことも無かった。
普通過ぎて。
当たり前過ぎて、母親の居ない子供という自分という存在が。